その背中に 
>>> Literary work by 時風砂輝 様(No.3)
 



初めて出会った時、兄妹では無いのかと聞かれた。
妹を探しているのだと言っていたその人と、記憶の無い私。
ただ少し髪の色が似ているだけと言う理由だったけど、違う事はすぐに分かった。
私は、その人が羨ましかった。
話す度に、生き別れの妹さんを本当に大切に思っている事が伝わったから。
私にも、そんな人が…貴方みたいな人が居れば良いと思った。
この軍には兄妹が沢山居て、当然ながらよく一緒に居るところを見掛ける。
賑やかな笑い声がする度に、私には遠い場所だと目を細めた。
だから、とても嬉しかったの。
貴方が、私の事を『兄妹のように』と言ってくれた時。
甘えても良いのだと、言ってくれた事も――。


「アーサー、そのまま後ろ向いてて?」

他愛無い話をしていた時だった。
ふと、ユリアはそんな事を言いながら、アーサーの後ろへと下がった。

「何…ユリア?」

アーサーは当然の事ながら疑問に思い、後ろに居るユリアへ振り向こうとするがその動作でさえ止められた。
良いからと彼女に言われ、結局アーサーはそのまま後ろを向く事にした。
他人が相手ならば、アーサーはこんな事は滅多にしない。
人が自分のすぐ後ろに居るのが気に入らないし、聞く必要も無いだろう。
何よりもまず、めんどくさいと思ってしまうのだ。
けれど、今はそんな事は思わなかった。
――それは、相手が彼女だからなのだろう。
そんな事を思って、思わず笑ってしまいそうになる。
ユリアが後ろに居るお陰で、今の自分の顔が見えなくて良かったと少し思った。

「これで良いのか?」
「――うん」

一瞬の後、とんと軽く身体がぶつかってアーサーは驚いた。
丁度、彼女が後ろから抱き付いたようになったからだ。
後ろの彼女を見てみるが、この体制ではユリアの顔は全く見えない。

「ユリア…?」
「あ、あのね、さっきラナさんがレスター様にこうしてるのを見て、兄妹ってこういう風にするのかなって…」

彼女には珍しく早口に紡ぎ出される言葉が、実際慌てているのだろうと想像出来る。
そして、その言葉に些か自分も落ち着いた。

――似たような髪の色。

一目で目を見張り、他人は似ているとそう言った。
それは血族を示す、自分達にとって失った肉親を探す手掛かりの一つだ。
血族かどうかでさえ、彼女には記憶が無いので定かでは無いが。
互いが兄妹では無い事くらい、分かっている。
それでも『兄妹のように想ってくれて良い』と言ったのは、慰めにしかならない事も分かっていたけど。
あの時は、自分にとってもそれは慰めのようなもので。

「あの…ごめんなさい。嫌なら…」

遠慮がちに後ろの服を掴んだ手が離れようとして、思わず自身の手で止めた。
顔を上げた彼女と、何だか久し振りに目が合ったような気がした。

「まさか」

そう言って笑って見せれば、彼女もほっとしたように笑う。
彼女の為だった訳じゃない。自分の為に、そう言ったくせに。
本当に会えるのか。会えたとしても、妹は俺を認めてくれるのか。
そんな誰にも言えない小さな不安を消したくて、勝手に彼女にそう求めたくせに。
今は――それだけでは嫌だと、思い始めている。
なんて、勝手な。

「でもレスター達って、ふざけてこうしてたんじゃないのか?」

子供の頃ならまだしも、大きくなったら普通こういう事はしないだろうと思う。
まあ、性格にもよるだろうが。

「そうね。でもとても楽しそうだったの」

その様子を思い出したのか、また彼女は笑う。
どうしてだろう。
彼女の笑顔を見ていたいと思うのに、時折その笑顔に胸が痛む。
触れたままの小さな手を、そっと握った。
その想いを、隠すように

「アーサー…?」
「ん?」
「う、ううん…。アーサーの背中って、やっぱり広いのね」

一度背中から離れていた額が、再び当てられる。
互いの顔が、また見えなくなる。
けれど、今はそれで良いと思った。
もう少し、このままで居られるなら。

「…そうか?」
「うん。お兄様に守られるのって、きっとこんな感じなのね」


あのね、ちゃんと分かってるの。
この背中が、私のものでは無い事くらい。
今まで誰にも、こんな風に甘えた事など無かったけれど。
でも、貴方は『想ってくれて良い』とそう言ってくれたから。
たとえどんな理由でも、とても嬉しかったから。
ほんの少しの間でも良い。
貴方の妹に、なってみたかった。
こんな風に、甘えてみたかった。
だから――貴方の妹で居ても良いですか?
どうか、もう少しの間だけ。


END

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     管理人のコメント

お互いがお互いの孤独を埋める存在になりつつある二人が、大変良い感じですね〜v(´-`*)
あいかわらずアーサーとユリアがじれったいほど初々しくて可愛らしく描かれているのは、さすがだな〜と思ってしまう管理人なのでありました。
余談ながらこの小説、同盟をリニューアルするにあたり投稿していただいたのですが、リニューアルのお知らせをしてから数時間もしないうちに、この小説が私の元に届いておりました、早っ。
さすがアサユリに対する愛にかけては業界1・2を争うお方です!投稿本当にありがとうございました!

 この小説を書かれた時風砂輝様のサイトはこちらです。

2009/08/08 UP
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